2009年11月07日

「婚活」サギ女の全人生

「婚活」サギ女の全人生AERA11月 2日(月) 11時58分配信 / 国内 - 社会

──今流行の「婚活サイト」を使った詐欺容疑で逮捕された34歳の女。彼女の周囲では、驚くべき事件が起きていた。彼女はいったい何者で、何があったのか。──

 外見に「派手さ」はまったくなかった。
 いつも、黒い半袖ワンピースを着ていた。髪を背中まで垂らし、化粧っ気はない。
 伏し目がちに話す。男性と一緒にいるところを目撃した近隣住民は見あたらない。小太りの中年女性。そんな印象だった。
「あの人が犯罪を起こすなんて、全く考えられない。信じられない」
 A子(34)が今年夏まで住んだ東京都板橋区の賃貸マンションの関係者がもらした。家賃を滞りなく納め、部屋もきれいに使っていた。理想的な入居者と思っていた。

■4人の死に共通点

 3年近く住んだその部屋から、西池袋のデザイナーズマンションへ移って間もない9月下旬、A子は埼玉県警に逮捕された。容疑は詐欺。インターネットの婚活サイトで知り合った静岡の40代男性、長野の50代男性に結婚を持ちかけ、それぞれから約130万円、約190万円をだまし取った、というのだ。
 降りかかる疑いは結婚詐欺だけではない。警察の調べに対してA子は「関与」を否定しているが、2007年以降、A子と何らかの交際やつながりがあったとされる男性たちが立て続けに不審な死を遂げている事実が明らかになったのである。
 このうち4人には死に至る経緯に、共通点がある。密室で練炭を燃やしたため、中毒しているケースが多い。複数の遺体から、睡眠導入剤が検出されている。いずれの男性もA子に金を渡しており、その総額が1億円前後に達しているのだ。
 いったい、何者なのか。それを知るために、A子の故郷・北海道へ飛んだ。

■祖父は町議会議長

 国後島を望む根室海峡に近い北海道東部の別海町。車で走ると、酪農地帯独特のツーンと来る匂いが鼻を突く。この町では、人口(約1万6000)より、牛の数(約12万頭)が多いのだ。
 夫婦と子供4人の一家はもともと、隣の中標津町に住んでいた。長子のA子が小学生のころ、一家は隣の別海町へ引っ越した。その後、高校を卒業して東京へ出るまで、この町で育った。
 祖父は長く町会議員を務め、10年以上、議長のいすに座り続けた。この祖父が営む司法書士事務所で、A子の亡父も行政書士の仕事をした。
 自宅1階にはグランドピアノがあり、母は4人の子供全員にピアノを教えた。
「両親とも教育熱心。家族6人が一緒にいた時期には、とてもいい家族だった」

■高校ではボランティア

 一家を知る近所の女性は話す。家にテレビを置かず、教育に役立つ番組に限り、A子たちは近くにある祖父の家で見た。子供たちは小遣いも与えられなかったという。女性の夫によると、
「(A子は)小さい頃から落ち着いた感じ。弟や妹たちの面倒をよく見ていた」
 町内の小、中学校を終え、地元の高校へ進学した。在学中のA子は、
「成績は普通。特別目立つ感じでもなかった。部活動はやっていない。空き缶集めや募金活動をするボランティアのグループに入っていた」(学校関係者)
 1993年3月に卒業し、東京で大手外食産業に就職した。3年後、東洋大学経営学部に入学したものの、学費未納を理由に、1年で除籍されている。
 上京後も、A子は1年に1、2度帰郷した。前出の住民は、
「帰ってきた時に、自家製の珍しいお菓子を『食べてね』とウチに持ってきたことがある。『手作りのお菓子をインターネットで販売して生活している』と、お母さんも言っていた。結婚話は、僕も妻も聞いたことはない」
 やがて、両親が別居した。子供たちは全員実家を後にし、一家は離散してしまう。
 しばらく音信が絶えていたA子の消息を、03年に故郷の人たちは耳にする。インターネットのオークションでパソコンの譲渡を装い、利用者から現金をだまし取ったとして東京で逮捕され、詐欺罪で起訴されたというのだ。A子は執行猶予付きの有罪判決を受けた。

■マドレーヌを手に

 地元の知人によると、事件を知り、一人暮らしの父はひどく落ち込んだという。05年、A子の父は羅臼町で車を運転中に崖から転落し、死亡した。
 葬儀は中標津町の寺で営まれた。会葬者は70〜80人。長女のA子が取り仕切った。前出の住民が明かす。
「喪服姿、化粧もごく普通で、外見が変わったような印象はなかった。ただ、驚いたことに、式の後、位牌と遺骨をみんな、A子が東京へ持っていってしまった。一周忌や三回忌も、東京だった」
 A子の転落を嘆いての自殺とする見方が根強かったにもかかわらず、父の死は「事故死」とされたという。
 父の墓は東京の寺にある。下町に大伽藍を構える名刹。境内では、約1・5メートル四方の墓所が永代使用料などを含め3000万円前後と、庶民には手が届かないほど高価だ。
 父の死から1年後、A子は板橋区のマンションから、同区内の別のマンションへ移る。2LDKで家賃は13万〜14万円。このマンションの関係者は話す。
「不動産屋の仲介で入ってきた。今よりやせていて、髪も肩くらいまでしかなかった。職業は『ピアノの出張講師』と言っていた。うちはピアノが置けないので確認したら、『自宅の外で教えに行ってるんです』という話だった。ただ、教えに行っている姿を見たことがない」
 今年2月、この関係者の部屋を、A子が訪ねてきた。
「バレンタインデーの数日前。『クッキー作ったんですけど、よかったら食べてください』と」
 店で買ったと思われる箱に、ひとつひとつラッピングされた焼き菓子が6〜7種類入っていた。中に入っていたA4の紙にはワープロ打ちで、『フードコーディネーター』の肩書に名前が添えられていた。
「これがプロ顔負けのおいしさ。数日後、『どこで買えるの?』って聞いたら、『あれは売ってないんです。喜んでいただけたのでしたら、またお持ちします』って、2週間後くらいにまた焼き菓子を持ってきた」

■不審な引っ越し

 この関係者によると、昨年末、A子は車を買った。シルバーのベンツで、中古だった。ほどなく、赤系のベンツに乗り換えた。
 今年8月、部屋から少しずつ荷物を持ち出すA子に気付いた。大型冷蔵庫や全自動洗濯機、テーブル、衣装ケース5〜6個。捨てるには惜しいと思える家具を、粗大ゴミとして出していた。
「引っ越すの、って尋ねたら、『引っ越しじゃないんです。荷物が多いんで、別のところに持って行くんです』と説明された」
 この関係者は間もなく、豊島区西池袋の家賃22万円のデザイナーズマンションの一室を、7月からA子が借りていた事実を知る。
「二重家賃状態をほったらかしにしていたんだから、お金はあったんだろう。池袋の家では、全部新しく買い直したんじゃないか。9月初めに埼玉県警の鑑識が入った時、(このマンションの)部屋はからっぽだった」
「9月上旬に彼女の携帯に電話をしたら、普通に出てきて『なんかご迷惑をおかけしたみたいで、どうもすいません』とか言われたよ。ふだんから落ち着いた感じで、感情を込めてしゃべるタイプじゃないよね」
 今年8月6日朝、埼玉県富士見市の駐車場で、レンタカーの後部座席で倒れている男性(41)の遺体が見つかった。助手席に、練炭の燃えかすがあった。死因は一酸化炭素中毒だった。警察が男性の血液を採取したところ、睡眠導入剤の成分が検出された。
 前夜、男性は自身のブログに、こう書き込んでいた。
「今夜から(結婚の)相手と旅行に行く」
 この男性は東京都千代田区の不動産管理会社員で、ネットの婚活サイトでA子と知り合い、交際していた。

■7400万送金の人も

 捜査関係者への取材では、この男性がA子に500万円を渡していたことも明らかになった。捜査官に事情を聴かれ、A子は答えたという。
「駐車場でけんかになり別れた。ショックで自殺したのではないか」
 3カ月近く前の5月15日には、A子が訪問ヘルパーとして出入りしていた千葉県野田市の住宅で火災が起き、80歳の男性の遺体が見つかった。近くに練炭の燃えかすがあり、やはり遺体から睡眠導入剤の成分が出た。火災の後、A子はこの男性のキャッシュカードを使い、現金180万円を引き出していた。
 一連の報道によると、2人の遺体から検出された睡眠導入剤は市販されていない。ところが、A子が病院で処方された薬とは、成分が一致するという。
 今年1月には、東京都青梅市のマンションで、やはりA子と交際していた53歳の男性が一酸化炭素中毒死した。室内で、練炭が燃やされた形跡があった。男性はA子の口座へ、1700万円を振り込んでいた。
 さらに07年8月、千葉県松戸市でリサイクルショップを経営する男性(70)が死んだ。この男性もA子の知り合いで、口座に7400万円も送金していた。
 これまでの報道や捜査関係者への取材などによると、A子はこんな方法で、男性たちと次々に懇意になったらしい。
 婚活サイトの掲示板に、次のような自己紹介文を掲載する。
「真剣に結婚を考えられる相手を探しています。私は学生で、今学期の授業料が納入できずにおります」
 知り合った相手に、こんな内容のメールを送る。
「今月の◯◯日までに納入できなければ残念ながら除籍です。将来を考えている方に支援して欲しいということも、私が交際する相手に望むことです」

■「次は綺麗なホテルへ」

 やりとりを重ねたあと、
「サイトの退会手続きを取りました。複数の方と連絡を取り合っていたり、これからも出会いを求めるようなことは気持ち的に良くないので…」
 といった文面のメールを男性に送る。
 このあたりで、男性は指定された口座にお金を振り込んでしまう、というのだ。そして、デートを何回か重ねたあとに、
「いつまでも子供のようなデートだけではつまらないのではないかと思います。お会いできるのでしたら、綺麗なホテルに連れて行ってほしいなと思います」
 といった内容のメールを送り、都内の高級ホテルを男性に予約させ……。
 A子の知人で、4人以外にも2人が不審死を遂げた事実を、捜査当局は把握している。また婚活サイトを介してA子が接触した男性は約20人に上るという。
本誌取材班
(11月9日号) 最終更新:11月 2日(月) 11時58分


タグ:婚活
posted by ぴか at 04:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 市橋達也
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